シンデレラは騙されない


斉木家の大きな門の前に立ち、私は小さくため息をついた。
昨日といい今日といい、私の目まぐるしい心の変化は、結局、振り出しに戻った気がする。

私は星矢君の家庭教師…
一年間、お金のためにこの家に奉仕する。
それ以上でもそれ以下でもない。
夢のような世界で、夢を見た気分になっただけ…

……麻里、ちゃんと現実を見なさい。

私は作り笑顔を無理やり貼り付けて、斉木家のインターホンを押した。

「麻里です。今、帰ってきました」

「は~い、お帰りなさいませ」

そう言って迎えてくれたのは山本さんだった。
私と交代で家へ帰る山本さんは、夢の世界と現実をちゃんと区別している。

山本さんは私の顔を見るなり、小声でこう囁いた。

「珍しく凛様がずっと家に居て、星矢君が興奮状態」

私は山本さんが見ていないところで、ガックリ肩を落とす。

……居なくていいんですけど。





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