シンデレラは騙されない
「り、凛様…
何でここに居るんですか?」
私は、自分は給湯室に隠れている事は棚に上げて、そんな事を聞いた。
「俺?
月に一度の役員会。
これに出なきゃ給料もらえないからさ」
何だか私の熱い心がスーッと冷めていくのが分かった。
さっきまでの恋する乙女はすっかりなりを潜めてしまう。
「月に一度?」
私の質問はスルーして、凛様は最高の笑顔で私にこう言った。
「一緒に帰ろう」
「え?」
凛様は時計を見る。
その腕時計もきっと相当高価な物…
「もう退社時間だろ?
地下に車を停めてるから、一緒に家に帰ろう」
凛様は会社で会うべき人じゃない。
ここは、皆、生活するために必死で働く場所。
月に一度の役員会に顔を出すだけで給料をもらう凛様は、やっぱりただのお坊ちゃまでしかない。
私は悪いと思ったけれど、凛様の誘いを丁寧に断った。
浮かれていた自分が恥ずかしかった。
私は、色々な意味で、凛様に恋をしちゃいけない。
今でも好きという気持ちに変わりはないけれど、でも、私の心にブレーキがかかったのは確かで、凛様の生活レベルや考え方に私が寄り添う事はあり得ないと、残念だけど、私の心と頭はそう確信した。