私は強くない
戻った私を見た圭輔さんが声をかけてきた。

「倉橋?何かあったのか?」

「あ、部長。さっき、都築部長から話がありまして、…ちょっといいですか?」

私は辺りを見回し、圭輔さんに声をかけた。

「ん?あ、じゃぁミーティングルームで…って使用中か、…会議室で話しようか?」

後ろを振り返り、ミーティングルームが使用中なのに気がついた、圭輔さんが会議室の空きを確認した。

「すみません」

そう言って、ミーティングルームが使用中だったので、会議室で話をする事になった。圭輔さんは、キーボックスから会議室の鍵を取ると、行くぞと声をかけた。
私は、圭輔さんの後ろについて行った。

会議室に入った圭輔さんと、向かい合わせで座った。

「で、どうした?」

「人事部に戻って欲しいって、都築部長が」

「え?なんで急に?」

「美波が退職するでしょ?だから、人員が欠けるって」

「そうか、でもだからってなんで慶都なんだ?こっち来てまだ半年じゃないか」

「そうなんだけど…都築部長に結婚するって言ったの?」

「えぇ!あ、あぁ…この間言った…かな」

明らか、動揺し始めた圭輔さん。

「どうしたの?」

「いや、元々プロポーズは受けてもらったし、タイミングさえ合えば結婚したい、って話はしたよ。まぁ、俺としては、今すぐにでもって…」

「結婚したい?」

「あ、あぁ。慶都を俺の物にしたい、みんなに見せつけてやりたいよ」

なんで、そんな甘い事をさらっと言えちゃうかな、仕事中だってば圭輔さん。
顔から火が出そうな勢いで、赤くなったのが分かった。

「圭輔さん、恥ずかしい…」

「いや、ほんとだってば。いい年したオッさんが何言ってるんだ?って思われてるだろうけど」

「そんなっ、私だって、いい年だし…」

「そんな事ないよ、慶都」

膝の上で合わせていた手を圭輔さんが、手を握ってきた。
片方の手が、顎にかかった。
そして、上を向かせたかと思うと唇が重なった。

「…ん、こ、ここ…」

会社、と言おうとした唇が再び塞がれた。

「…ほら、もうダメだ、な?」

「バカ…」

何がダメなのか…
課長と部長で何やってるの…

「…圭輔さん、結婚したら同じ部署では働けない決まりでしょ?だから、って都築部長が話してきたんだけどね」

「……あ、そうか。そうだったな…」

それだけ言うと、圭輔さんは黙り込んでしまった。
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