私は強くない
「えー!蒼井さん帰ってくるんですか?」

私は、蒼井が人事異動で大阪から戻ってくる話を美波にしていた。
美波は、私が蒼井から告白された事を知っていた…と言うより、その現場を見られた経緯があった。

「それで、名取部長には話したんですか?」

「したんだけど、大丈夫だろう、って。心配しなくていいって言うんだけど」

「えー、それはないですよ。慶都さん、だってあの時、蒼井さん別れたら俺にチャンスあるんだから、その時は慶都と付き合うって言ってたじゃないですか」

「…だよね。そうだよね。言ってたよね、美波あれ聞いてたもんね…」

「あれは凄い現場を、見てしまったと思いましたよ。あの気迫から言ったら絶対諦めなさそう、だけど…」

そう、
美波が言うように、凄い気迫だったんだ。告白された時…
もう少し俺が早く言ってたら、こんな事になってなかった、って。
しかも、拓真と別れた話が大阪までいってしまった時も、実は連絡が来ていたのだ。これは美波も知らない事。

そう、拓真の事が公になった後、蒼井から電話があった。

「倉橋!大丈夫か?こんな事ならあの時、無理にでも奥菜との付き合いを反対するんだった、力づくでも俺のものにするべきだったな」

電話で、あれだけ言ってたんだから、本人が直接帰ってきたら、ものすごい事になりそうだ。
あの時、私は大丈夫。とだけ言った。
圭輔さんとの事を言うには、いきなり過ぎて、言えなかった。
それを蒼井が、どんな風に取ったのか…

「しかも、指導係私なんだよね…」

「嘘っ!ヤバイじゃないですかっ!」

「でしょ。圭輔さん、心配はしないって言ってたけど、私が心配なんだよね」

「慶都さん、名取部長の心配しないは、多分強がりですよ。そんなの気にならない男の人がいない訳ないじゃないですか!」

「そ、そう?そんなものなの?」

電話口から美波のため息が聞こえた。

「慶都さん、幸せボケしすぎですよ。だって、あの名取部長ですよ?そんな訳ないじゃないですか」

あの名取部長、と言われて納得してしまった。
確かに…

「どうしよう…」

「…うーん」

相談するつもりで電話をして、さらに闇に入ってしまった。
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