私は強くない
美波に相談してから、数日が経ったある日、会社の廊下を歩いて声をかけられた。

「倉橋!」

「え?あ…!」

目の前に、3年ぶりに戻ってきた蒼井が立っていた。

「久しぶり!元気にしてたかっ!」

蒼井はそう言うと、私の方までかけてきて、いつもしていたみたいに私の髪をくしゃくしゃにした。

「もう!それは止めてっていつも言ってたでしょ?」

「いやぁ、久しぶりだろ?これやらなきゃ始まらないよ!」

そうだ、3年ぶりなんだ。
蒼井とは、同期入社で同じ営業部に配属されて、なんとなくだけど、気の合う同僚だった。あの告白をされるまでは。
私は、異性として見ていなかったから…
拓真や圭輔さんのような、見て分かるイケメンタイプではないけど、人懐こっこそうな、優しそうな、目元は変わっていなかった。

「倉橋!ちょっといいか?」

ドキッ

「え?あ、はい。ごめん、部長に呼ばれてるから」

圭輔さんが、私を呼んだ。
見られてた?今の…
乱れた前髪を整えながら、圭輔さんの元に走って行った。

「部長、どうしました?」

目線は蒼井を見たまま、圭輔さんは、

「蒼井、今日から出勤だったのか?知ってたのか?」

「…っ、そんな、私は今、そこで声をかけられて初めて知ったの」

「そうか…、後で部長室に来てくれ。話がある」

それだけ言うと、圭輔さんはそのまま私を見る事なく、蒼井に向かっていった。

「蒼井、久しぶりだな」

「名取課長、あ、部長になられたんですよね。おめでとうございます。出勤は来週からなんですが、今日は挨拶で来ました。本当は営業部希望してたんですが、今回は人事部で戻ってきました。よろしくお願いします」

「そうか、人事部でも大阪でも得た事を発揮してくれよ。それと、倉橋はもうお前が知っている同期の倉橋じゃないぞ。課長だからな、そこ忘れるなよ」

「あ、はい」

何も知らない蒼井は、圭輔さんに挨拶をしていた。
圭輔さんも、蒼井とは営業部で働いただけあって、普通に話しかけていた。
この時、私は圭輔さんが怒っていた事なんて、気づいてもいなかった。
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