私は強くない
会社に着いた私は、人事部に向かったが、いつ蒼井と顔を合わすのか不安だった。
圭輔さんは、一人になるな俺が行くまで橋本と一緒に仕事を進めておくんだ、と声をかけてくれた。
橋本君も圭輔さんから話があったのか、私の姿を見つけるとすぐに寄ってきてくれた。

「おはようございます。倉橋課長」

「あ、おはよう。橋本君、昨日はありがとうね」

「いえいえ、名取部長からも言われてるんで、心配ないですよ」

周りの人に恵まれている事に感謝した。
橋本君と廊下を歩いていると、前から蒼井が歩いているのが、見えた。
私の緊張が伝わったのか、橋本君が目線を前に向けたまま

「何もなかったように振舞って下さい。いつもと同じで…」

「……ええ、分かったわ」

「おはようございます。蒼井係長」

「ん、あ、あぁ。おはよう」

「おはよう、蒼井」

「っ、倉橋課長…、おはようございます」

昨日の事を気にしているのか、少し戸惑った様子が見て取れた。
そのまま、私は橋本君と人事部に向かった。

自分のデスクに着いてすぐに、内線が鳴った。

「はい、人事部、倉橋です」

「慶都か?大丈夫だったか?」

「あ、はい。橋本君が一緒だったんで大丈夫でした。心配かけてすみません」

「いや、いいんだ。休憩前に都築に時間取ってもらうように、さっき話したから待っててくれ、何かあったらすぐに行くから」

「…ありがとう。大丈夫」

そう言って内線を切った。

仕事は仕事して、蒼井に引継ぎを説明していた。
その間、蒼井も仕事に専念はしてくれていた。私も少し安心…していたかもしれない。
もしかしたら、諦めてくれたのかもしれない。
そんな事を思っていた。

< 121 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop