私は強くない
「はー間に合った…」

肩で息をしながら、席に着いた。

「昨日大丈夫だったんですか?」

そんな私を見て、美波が話しかけてきた。

「大丈夫よ…。また話…するわね」

心配そうに私を見る、美波を直視出来ない。
『昨日』と言われ、思い出してしまったから…。
赤くなってるであろう、顔を美波に見られないように、業務に取り掛かった。


「…えー!」

「や、しっ、声でかい」

昼休み、美波と食堂に来ていた私は、昨日の話を食事しながらしていた。
あまりの衝撃に叫んだ美波。
周りのみんなが、私達を見たもんだから、慌てて口を押さえた。

「なんで、なんで?」

そりゃ、なんで?ってなるよね。

あの、浜口香里の話を聞いた美波は、目が点になってた。

「奥菜も腐ってるけど、女終わってるじゃないですか!待ち伏せとか、ありえない!」

声を押さえて、怒りに震える美波。
また、怒鳴り込みに行きそうな勢いに、まぁまぁと落ち着かせる。
美波は、どうしてそんなに落ち着いてるんですか!と、また怒ってる。

…だって、終わった事だし、私にしてみれば、その後の出来事の方が、大事だったから。

結局、最後まで話が出来ず、また夜に持ち越す事になった。

「絶対ですよ!」

納得いかない美波は、夜にと念押しして仕事に戻った。



就業後、私は美波を家に誘った。
金谷君にも来て欲しい、と頼んだ。
二人には、心配をかけたし、迷惑もかけたから。

約束した時間にはまだ余裕がある、間に合うように、何か作ろう。
美波はお酒は買って行きますんで!って、言ってくれてたし。


美波と金谷君が来る前に、圭輔さんが先に来てくれた。

「金谷達まだか?」

「はい。けど、もう少しで着くって、さっき連絡ありました」

「そうか、今日はごめんな?」

「ん?何が…っ」

何がですか?と聞きかけて、なんの事を言ってるのか分かった。
また思い出して、恥ずかしくなる。
そんな私を見て、

「だから、そうやって俺を煽るなよ…キスしたくなるだろ」

え?
顔を上げて、圭輔さんを見た。
圭輔さんも、顔が真っ赤。

「圭輔さんも顔赤いですよ、ふふっ」

「…ん…」

壁に押しつけられ、激しくキスされた。

「…っ、もう、着くって…」

「キスだけだから…っ」

ダメ、止まらなくなる…

キスだけ、と言いながら深まっていく二人の吐息…

そして、二人の邪魔をしたのは、来訪を告げるチャイムだった。
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