家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「あー、で、どうするんだい。君たちは」

やれやれといった様子で促すケネスに、レイモンドは顔を赤くして頭をかく。

「どうって……」

オードリーも頬を染めて一瞬何か言いかけたが、クリスがスカートを引っ張っているのに気付き、苦笑する。

「いったん帰ります。レイモンド……夜の食堂が終わったころにまた来るわ」

「あ、ああ」

「クリス、帰りましょう」

「……でも」

クリスがちらりとロザリーを見る。

「まだロザリーちゃんにちゃんとお別れしてない。明日には帰るんでしょう?」

クリスは母親のスカートから手を離さないまま、ロザリーにも手を伸ばす。全身で愛情を訴えてくるクリスが可愛らしかった。

「予定を変えたの。首都に戻るのは一日ずらすわ。明日、もう一度ちゃんとお別れしましょうね」

オードリーはクリスにそう言い聞かせ、改めてロザリーに向き直り、「いろいろありがとう。クリスがたくさんお世話になって」と頭を下げた。

「そんな。……クリスさんとはお友達です。私もクリスさんと一緒にいれて楽しかったです。……また明日、お話しましょうね」

「うん!」

たくさん泣いて、たくさん走って、クリスは相当疲れたのだろう。オードリーに抱き上げられると途端にとろんとした目つきになる。

「本格的に寝られる前に帰らなきゃ」

オードリーは焦ったように、クリスを抱いたまま切り株亭を出ていく。
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