家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「夜分遅くに申し訳ありません。ケネス様」
ロザリーはスカートをつまんで礼をする。ケネスはその所作を見てほほ笑んだ。
「やはり君はある程度の教育は受けている女性なんだな。だが一つだけ忠告すると、夜に男に呼び出されて素直についてくるのは危ないよ?」
言われて、ロザリーは意外だというように目をぱちくりとさせる。
「え? でも、ザック様ですよ?」
「よく知っている男でもね。どんな下心が隠れているかわからないよ?」
「人聞きの悪いことを言うな、ケネス」
ザックが途端に慌てだすので、珍しいその姿にロザリーは笑ってしまった。
「ケネス様。私にはザック様が私を傷つけようとするとは思いません」
「あまり信用しすぎるなという意味だよ。傷つける気はなくても、男には衝動が止まらないときだってある」
意味ありげにウィンクをして、ケネスは応接室へと案内した。
ソファがいくつも並べられていて、軽く十人は座れそうだ。茶色と赤色で東洋風の模様が描かれた絨毯。落ち着いた色合いの壁。調度品を見ると、イートン伯爵のセンスの良さが伝わってくる。
ロザリーは勧められたソファに腰掛ける。広い屋敷に招かれた経験はほとんどなかったので、どうすればよいのか思いつかない。