家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

王はその実直さや誠実さを見込んで、イートン伯爵に頼んだのだ。
彼ならば、出産を控えた女性を危険にさらすようなことはしないだろうし、ちょうど伯爵子息夫人が妊娠中だから、乳母や医師が多く出入りしても怪しまれないだろうという理由もあった。

イートン伯爵家は首都から離れている。領地は肥沃な大地を含むため裕福で領民もみんな穏やかだ。
第二王妃であることは当主と親族と執事以外には秘密にしたまま、カイラは伯爵家に迎えられた。王妃としてあがめられることもなく、かといって侍女として虐げられることもなく、普通の人間のように扱われることで、カイラは次第に元気を取り戻したのだ。
ケネスがひと月先に生まれ、アイザックが生まれる。ふたりは兄弟のように一緒に育ち、三歳までここで育った。

やがてカイラとアイザックは王によって、王宮に呼び戻される。
第一王妃が妊娠したのが理由だとも言われているが、王の真意はわからない。

しかし身分の低い第二王妃にとって、王宮は決して居心地のいい場所ではなかったのである。
戻ってきたカイラを、王はたいそう大切に扱った。しかし、正妃が妊娠していたことを思うと、カイラは王を信じ切ることも出来なくなった。自分が再び妊娠すれば、彼はまた正妃のもとへと舞い戻るのだろうと思ったのだ。
王の寵愛だけがすべての立場で、彼を信じられなくなれば足場を失うのと同じだ。
鏡の中に、少しずつ老いる自らの姿を見るたびに、カイラは心の均衡を崩していったのだ。
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