家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

ザックことアイザック第二王子は、彼の乳兄弟だ。
このモーリア国は、王族のみ一夫多妻制が敷かれている。それは正しく世継ぎを残すための施策であり、正妃がきちんと男児を生んでいれば、通常は側室を持つことはない。

しかし、現国王であるザックの父親は違った。
幼少期から婚約が決められていた正妃との間に男児がいたにもかかわらず、王宮勤めの異国の血が入った侍女カイラを側室にと望んだのだ。

彼女が妊娠してから、正妃や正妃付きの侍女からの嫌がらせが多発した。
王が守ろうとしても政務があるし、もともと侍女であるカイラには庇ってくれる後ろ盾もない。精神的に疲弊したカイラは、離宮にその身を移すことになる。しかし、それはむしろ警備を甘くしただけとなり、離宮に暴漢が忍び込む事件が起こった。
このままでは出産を控えたカイラの命が危ないと、王は彼女を行く先を誰にも知らせずに隠した。
その隠し先が、イートン伯爵家である。

当時のイートン伯爵であるケネスの祖父は、自らを律し、不正を許さない実直な人物として有名だった。
相手が王でもそれは変わらず、イートン伯爵はしっかり世継ぎを生むという使命を果たした王妃がいるのに側室を迎えた王にもよく苦言を呈していた。
その反面、彼はカイラや生まれてくる子には罪がないとも明言しており、不遇の第二王妃に対してはことさら気を使って接していた。
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