家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
ケネスの誘いに、アイザックは頷いた。
そうしてアイザックを連れて帰ったケネスを、イートン伯爵は叱らなかった。
王城に出向き、アイザックがしばらく静養するために必要な手順をすべて整え、第二王妃も静養という名目で離宮に移し、アイザックが国王に知られずに会いに行けるように手配したのだ。
そうして一年、アイザックは“ザックという名のケネスの従弟”という肩書でこの街で暮らした。
平和なアイビーヒルは、彼の心を少しずつ癒していく。もちろん、この機会にと第二王子暗殺を願うものも忍び込んでくる。ケネスはなるべくアイザックから離れずに彼の身の安全を守った。
そして彼はロザリーと出会ったのだ。
彼女にはまるで愛玩動物のように、人を和ませる空気がある。
それが、アイザックを癒したのか定かではないが、ここ数ヶ月でアイザックの心は格段に回復した。子供の頃のように笑ったり、人をからかったりできるまでになったのだ。
第一王子の容体は悪化こそしないものの良くはなく、第一王妃は付きっ切りで看病しているらしい。
国王も王太子を心配してか、最近は政務に身が入らないらしい。
代わりに勢力を伸ばしているのは第一王妃の親族だ。議会でも相当幅を利かしているとイートン伯爵経由でケネスは聞いている。
たった一晩で錆びた記念硬貨は、ある意味ではその証拠だ。
通常の合金とは異なる割合で鋳造されていることは間違いなく、財務担当の貴族が不正していることは明らかだ。
そしてそれは綻びの一部でしかない。王都から離れたイートン伯爵領から想像するよりもずっと、政治は腐敗しているだろう。
やがて民衆は救世主を求めるに違いない。
現時点で救世主たる条件を一番満たしているのは、王太子の次に王位継承権があり、庶民の母を持ち、政治能力にも長けているアイザック第二王子だ。
ザックが王都へ呼び戻される日は近いだろうとケネスは思っている。
(できればそのときに、ロザリー嬢が一緒に来てくれるといいのだけどね)
穏やかな表情でロザリーを見つめるザックを眺めながら、ケネスはゆっくりと蜂蜜酒を飲む。
イートン伯爵家の放蕩息子は、いつだって彼の友人の味方なのだ。
【Fin.】


