家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

ケネスの誘いに、アイザックは頷いた。
そうしてアイザックを連れて帰ったケネスを、イートン伯爵は叱らなかった。
王城に出向き、アイザックがしばらく静養するために必要な手順をすべて整え、第二王妃も静養という名目で離宮に移し、アイザックが国王に知られずに会いに行けるように手配したのだ。

そうして一年、アイザックは“ザックという名のケネスの従弟”という肩書でこの街で暮らした。
平和なアイビーヒルは、彼の心を少しずつ癒していく。もちろん、この機会にと第二王子暗殺を願うものも忍び込んでくる。ケネスはなるべくアイザックから離れずに彼の身の安全を守った。

そして彼はロザリーと出会ったのだ。
彼女にはまるで愛玩動物のように、人を和ませる空気がある。
それが、アイザックを癒したのか定かではないが、ここ数ヶ月でアイザックの心は格段に回復した。子供の頃のように笑ったり、人をからかったりできるまでになったのだ。

第一王子の容体は悪化こそしないものの良くはなく、第一王妃は付きっ切りで看病しているらしい。
国王も王太子を心配してか、最近は政務に身が入らないらしい。
代わりに勢力を伸ばしているのは第一王妃の親族だ。議会でも相当幅を利かしているとイートン伯爵経由でケネスは聞いている。

たった一晩で錆びた記念硬貨は、ある意味ではその証拠だ。
通常の合金とは異なる割合で鋳造されていることは間違いなく、財務担当の貴族が不正していることは明らかだ。
そしてそれは綻びの一部でしかない。王都から離れたイートン伯爵領から想像するよりもずっと、政治は腐敗しているだろう。

やがて民衆は救世主を求めるに違いない。
現時点で救世主たる条件を一番満たしているのは、王太子の次に王位継承権があり、庶民の母を持ち、政治能力にも長けているアイザック第二王子だ。
ザックが王都へ呼び戻される日は近いだろうとケネスは思っている。

(できればそのときに、ロザリー嬢が一緒に来てくれるといいのだけどね)

穏やかな表情でロザリーを見つめるザックを眺めながら、ケネスはゆっくりと蜂蜜酒を飲む。
イートン伯爵家の放蕩息子は、いつだって彼の友人の味方なのだ。


【Fin.】
< 181 / 181 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:158

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

引きこもり令嬢の契約婚約

総文字数/94,598

ファンタジー121ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ブライト王国の二大侯爵家のひとつであるシーグローヴ侯爵家。 長女であるセアラは、引きこもりの読書家だ。 高等教育を終えてもなお、大学に聴講生登録をし、婚活とは真逆の生活を送っていた。 そんな彼女に、王太子エリオットとの縁談が持ち上がる。 なんでも三人いる候補のひとりになったらしい。 薬学を学ぶ彼女には、どうしても会いたい存在がいる。 王太子、エリオットを加護する聖獣、シロフクロウのホワイティだ。 結婚には興味がないが、ホワイティには会いたい。 かくして、縁談に臨むことになったセアラだが、エリオットが予想外な提案をしてきて……? 引きこもりの侯爵令嬢 セアラ・シーグローヴ(18) × 実は策士な微笑みの貴公子 エリオット・オールブライト(20) 手元で書いていると進まないので、ファン限定公開します。 週1程度ののんびり更新です。 めどがついたら一般公開にします。よろしくお願いいたします。 2025/10/15  更新開始
処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
  • 書籍化作品
[原題]あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

総文字数/132,289

ファンタジー161ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
かつてフローライトの精霊に愛された国と言われたボーフォート公国 しかし、いつしかフローライトが採れなくなり、国は衰退していった。 難民を保護していた隣国レッドメイン王国は、第三王子ルークを大将として軍を編成し、 ボーフォート公国を征服する。 王となったルークの善政のおかげで日々の暮らしは送れるようになったが、まだまだ復興したとは言いずらい。 そこでルークは、20年前に失踪した精霊と話ができるという巫女姫を探そうとする。 一方、メイドのアメリは、ひょんなことからルークの雑用係に任命される。 若くてイケメンな王に仕えたいメイドはいっぱいいるのになぜ自分なのか。 秘密を抱えるアメリは、頭を抱えていた。 だってそう。実はアメリは巫女姫の娘。 そして、精霊の声が聞こえるのだから──。 ボーフォート公国の若き公王 ルーク・レッドメイン(25) × アメリ・スレイド(20) 公王の雑用係に抜擢 とにかく正体はばれたくないんです! 完結しました!  2024/5/7~2024/5/17 
表紙を見る 表紙を閉じる
ファンレターのお返事で使用していたSSです。 現在のお返事ペーパーは3巻目の後の内容になっております。 だいぶ時間が経過したので、1巻目、2巻目のときのSSを掲載しています。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop