家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「元気か? 早速チェルシーにしごかれているようだが」
「わかります?」
「顔に疲労が乗ってる」
ぱっと見で言い当てられるとは情けない。もっと体力をつけなくてはと決意を新たにする。
「君にプレゼントだ」
ほら、と渡されたのはレース生地で作られた折りたためる扇だ。薔薇の刺繍がされていて、可愛らしい。
「素敵! ……でも、どうして?」
「君の特技を生かせばいい……とは言ったが、残念ながら君の特技は見た目があまりよくないからな」
「え……あ!」
クンクンと人の匂いを嗅ぐ所作のことか、と思いいたる。
たしかに、女性がするにははしたないかもしれない。ロザリーが気にしなくても、嗅がれるほうが気にする場合もあるし。
顔が一気に赤くなってくる。
「これだけで、印象は変わるだろう」
ザックが扇を広げ、ロザリーの顔の前に差し出した。
匂いを嗅いでいる鼻と口もとを隠すことができる。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。そして君の客を連れてきたよ。先ほど宿屋の前でうろうろしていたご婦人だが」
後ろからひょっこりと顔出したのは、三十代くらいの女性だ。
「風に飛ばされた帽子を探しているの。南の方向へ飛んだと思ってここまで来たのだけど、見つからなくて。夫に買ってもらった帽子なの。失くしたと知れたら怒られるわ」