家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

「元気か? 早速チェルシーにしごかれているようだが」

「わかります?」

「顔に疲労が乗ってる」

ぱっと見で言い当てられるとは情けない。もっと体力をつけなくてはと決意を新たにする。

「君にプレゼントだ」

ほら、と渡されたのはレース生地で作られた折りたためる扇だ。薔薇の刺繍がされていて、可愛らしい。

「素敵! ……でも、どうして?」

「君の特技を生かせばいい……とは言ったが、残念ながら君の特技は見た目があまりよくないからな」

「え……あ!」

クンクンと人の匂いを嗅ぐ所作のことか、と思いいたる。
たしかに、女性がするにははしたないかもしれない。ロザリーが気にしなくても、嗅がれるほうが気にする場合もあるし。
顔が一気に赤くなってくる。

「これだけで、印象は変わるだろう」

ザックが扇を広げ、ロザリーの顔の前に差し出した。
匂いを嗅いでいる鼻と口もとを隠すことができる。

「……ありがとうございます」

「どういたしまして。そして君の客を連れてきたよ。先ほど宿屋の前でうろうろしていたご婦人だが」

後ろからひょっこりと顔出したのは、三十代くらいの女性だ。

「風に飛ばされた帽子を探しているの。南の方向へ飛んだと思ってここまで来たのだけど、見つからなくて。夫に買ってもらった帽子なの。失くしたと知れたら怒られるわ」
< 73 / 181 >

この作品をシェア

pagetop