結婚願望のない男


「あ…!でも、結婚の話は重いって感じるんだったら別に気にしなくていいぞ。その、軽い気持ちで言ってるんじゃないって意味だから…結婚となるとお互いの気持ち以外にも親とか仕事のこととかも絡んでくるだろうし…!」

「…こ、こんな私でよければ、よろしくお願いします」

「…え」

私は恥ずかしくて彼の顔を見ることができず、ちょこっと頭を下げた。

「私、山神さんをうならせるようなチーズハンバーグを作れるように、練習しますね。その代わり、山神さんは私においしいコーヒーのこと、もっともっと教えてください」

山神さんは一瞬目を丸くして、そして…今までに見たことがないくらい、うれしそうな笑顔になった。


彼の言動に振り回されて、つらい気持ちになったこともある。島崎くんに慰めてもらって、心が揺れ動いたこともある。
だけどもう、山神さんが冷たいとは思わない。彼が何を抱えていて、何を考えているのか、やっとわかったから。
それに。

「…、何笑ってるんだよ」

照れ隠しなのか、山神さんに軽く頭をこづかれた。

「…だって。嬉しくて…」

「だからってニヤニヤするのはやめろ、こっちが恥ずかしいだろう」

「…私を好きな理由…全部嬉しかったけど…。ある意味、島崎くんを褒めてもらえたことが一番うれしかったかも。仕事で怒られてばかりの私だけど、島崎くんが同じ部署での初めての後輩で、当時の上司にも彼をしっかり育てるように言われて…。私なりに一生懸命に彼に色々教えてきたの。彼はもう私をとっくに追い抜いてると思うけど、彼を育てるっていう仕事がちゃんとできたんだって思えてうれしい。課長に怒られるようになってから、仕事への自信はなくなっちゃったけど、一つやることはやれたのかなって」

「…こんな時にも仕事の話かよ。あんたほんと、仕事が好きなんだな。…ていうか、あんたが俺の告白をOKしてくれた理由、“島崎を褒めてくれたから”じゃないよな?ちゃんと俺のこと好きって思ってくれてるよな?…ほんと、島崎には嫉妬するよ」

言葉はちょっと乱暴だけど、山神さんはさらに笑みを深くしている。怒っているわけではないようだ。島崎くんも優しい人ではあるけど…島崎くんは山神さんのことをすごく敵視していた。でも山神さんは、ライバルであっても島崎くんのフォローもしたし、良いところも見つけてくれていた。やっぱり山神さんが一番優しいと思ってしまうのは、この差なのかもしれない。

「あはは、そんなことないですよ。山神さんの優しいところ、大好きです。なんかこう…全般的に優しいところが」

「…それ、ざっくりしすぎじゃね?まぁいい。おいおい、じっくり聞かせてもらうからな。俺のどこが好きか」
山神さんはあまり納得はしていないようだ。
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