アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
でもそう思った次の瞬間には強く瞼を閉じ、飛香は疼く心を振り切って、席に戻った。
アスカに会って話をするまでは、なんとしても気持ちを抑えなければいけない。

――この体はまだ、私だけのものじゃないのだから。

「洸さん、本当は今日の映画、退屈だったんでしょう」

「ん? そんなことないよ」

「えー、でも途中ちょっと寝てましたよね」

「あはは、バレた? 暗くなるとつい眠くなっちゃうんだよね」

他愛もない話を沢山して、散々笑う。
おかげで食も進み、飛香が作った料理はいつの間にか全て空になった。

飛香が後片付けをする横で、洸が紅茶を用意する。

テーブルの真ん中に置いたのは、バースデーケーキ。
買い物をしたスーパーの近くで見かけた小さな洋菓子店で、選んだのは洸が好きなブランデーがたっぷりと沁み込んでいるというチョコレートのケーキだ。

立てたロウソクは三本。一本は十年分だ。

飛香がハッピーバースデーを歌い、洸がロウソクの炎を吹き消した。

スマートホンで写真を撮る。
笑った顔に変な顔。楽しさのあまりつい時間を忘れてしまう。

ちらりと時計を見ると既に八時を回っていた。
< 306 / 330 >

この作品をシェア

pagetop