アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
「飛香」

名前を呼ばれただけで、ハッとして胸が高鳴った。
「はい?」

「飛香の誕生日はいつ?」

「私の誕生日は、十二月二十四日です」

「え! クリスマスイブなの?」

「そうなんですよ。洸さんとは逆で寒い寒い冬です」

朱鳥も飛香と同じ誕生日だった。
平安時代にクリスマスはないが、冬の寒さは同じである。

「飛香の誕生日も、ここで祝おう。その時期は夜景が一番綺麗な時なんだ」

飛香は頷いて「ありがとうございます」とだけ言った。
しっかりと約束が出来ないことが悲しく心の中で疼く。

空になったお皿とカップをトレイに載せて立ち上がると、洸も一緒に立ち上がった。

「送っていくからね」
飛香がサッと洗った皿を洸が受け取って、食洗器の中に入れていく。

「今日は本当にありがとう」
そう言いながら向ける優しい微笑みが、何故だか飛香の哀しみを誘ってくる。

形の見えない思いに、泣きそうになった。

どういたしまして、という言葉さえ声にならず心の中に沈む。

それでも、バッグを持って廊下を進んだところまでは我慢ができた。

――このまま靴に履き替えて玄関の扉を開ければ大丈夫。外の空気が心の澱を吹き飛ばしてくれるだろう。

そう思っていたのに――。
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