アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
『帰りたくない』

ーーそんなことまで言わせて、はいそうですかと帰せるはずがないじゃないか!

バシッとソファーに拳を叩きつけ、肩で大きく息をした。

何に対する怒りなのか自分でもわからない。

碧斗への不満というわけでもなかった。約束したのだから、碧斗になんと罵られようとそれは受け入れるしかないが――。

『平安の都に帰ることになっても、あの日の想い出を胸に生きていけます』
一週間前の夜、電話の向こうで飛香はそう言い出した。

『どうして、そうなるの? 飛香?』

『ごめんなさい。これから十月までひとりになりたいんです。そのあと連絡します。それまで待ってくれますか?』

『え? あ、うん。飛香がそう言うなら、待つけど』

『よかった。じゃあ、おやすみなさい』

『ちょ、ちょっと待って! 飛香?』

切れた電話からは、ツーという機械音だけが響いた。
それきり何度かかけ直したが連絡はつかない。家まで行こうかとも思ったが、それも大人げないような気がして、行くことはやめた。

ーーそんなことを言わせるために、君を抱いたわけじゃない。
過去にするために、愛情を注いで愛おしんだわけじゃない。未来のために、ふたりの未来のためにあの夜はそのために。

この思いが、なぜこうも飛香に届かないのだろう。
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