アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
その日、仕事が終えると洸は邸ではなくマンションに帰った。

部屋に入ってネクタイを外しシャツの襟を緩めると、ぐるりと部屋を見渡した。

スタンドライトの淡い灯り。フットライトや間接照明がぼんやりと床を照らす。その先、奥へと続くベッドルームからも微かな光が漏れる。

誕生日を二人で迎えた夜から二週間が過ぎ、月も変わった今、飛香がこの部屋に残した痕跡は何も残っていない。

飛香の香りはもう感じ取ることはできないし、冷蔵庫に残してくれたローストビーフは食べてしまって跡形もない。この部屋に彼女が来たことすら、遠い昔の記憶のような気がした。


ーーあの夜はそんなつもりではなかったんだ。
今更のように、洸はそう思った。

やましい気持ちがなかったわけではない。
でも、夜景を見ながらキスができれば、それでもう充分だと思っていた。

なぜなら約束したから。
十月までは友達でいようと……。

なのに実際飛香を目の前にしてしまうと、冗談みたいにその決意が脆く崩れた。
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