隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
つけっぱなしのクーラーの冷たさから逃れるように、ごそごそと温もりを探すと、求めていたものに辿り着く。喉が渇いているのはクーラーのせいか、深夜まで続いた激しい情事のせいなのか。
 
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。窓の外からは、清々しい鳥のさえずりではなく、大きなセミの声が聞こえている。もう朝と言っていい時間は、とっくに過ぎていると思う。

五十嵐さんはまだ寝てるみたい。乱れた髪や生えかけたひげですやすやと眠る姿は、私が二年前から知っているその人のものだ。
とても不思議な気分になる。前は格好悪いと思っていた無精ひげがこんなにも愛おしい。
そっと顎に触れると、くすぐったかったのか、五十嵐さんが身じろぎした。

「りん、……ちゃん?」

寝ぼけた様子で、そう言った。

(えっ……?)

私は莉々子だ。ちょっと似てるけど、「りん」なんて名前じゃない。
彼の目がゆっくりと開いていく。私、今どんな顔してる?

「どうした?」
「……りんって、誰のことですか?」
「りん?」
「たった今、寝ぼけて私のことをそう呼びました」

思い当たる人がいるのか、五十嵐さんが一瞬やばい、という顔をした。
それを見て、私の中で一気にドロドロとしたものが湧き出てきてしまう。

こうやって朝、当たり前のように一緒にいた私以外の人が、まだ彼の心に棲んでいるのかと思うと、感情が上手く制御できない。
涙を堪えていたせいで、今の私は、相当不細工な顔をしているだろう。五十嵐さんは何かを諦めたように吐き出した。
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