黒縁眼鏡と銀縁眼鏡
話を聞いたところで私には、知重なる私と別の人物が体験した話、としか思えず。
ただ、身体の状態でかろうじて、自分のことなんだと認識できる程度。
そもそも、自分の名前が知重なんだといわれても、実感がない。

「無理に思い出すことはないよ。
記憶を失うってことはそれだけショックが大きかった、ってことだからね。
……とにかく。
いま、知重が元気で、僕の元にいるってことが一番大事」

北嶋さんからぎゅーっと抱きしめられても、戸惑うばかりだった。


まだひとりでの風呂は危ない、それに恋人同士なんだから問題ないでしょ?

そう北嶋さんに押し切られてお風呂に入れてもらった。
髪も乾かしてくれる。

手足の包帯を替えるときに怪我の様子を見てみたら、べったりとガーゼに血がつくほど軽く抉れてたりして、目眩がした。

「ずっと手錠でベッドに繋がれてたみたい。
暴れただろうし、痛かったよね、こんな。
きっと痕になっちゃうな。
可哀想に」

そっと、包帯の上から北嶋さんの唇がふれた。
それに背筋が逆立つ思いがするのはなんでだろう?
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