大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「まぁ、喜んでくれてるから、今はこれで我慢するわ」
菜生の真似をして左手をかざしお揃いの指輪に浮かれている。
「お前、絶対外すなよ」
「奏もね」
「菜生の他に女いないから、外す理由はなーし」
もう、綺麗さっぱり女遊びなんかやめ、ほとんど菜生の元に通っているのに、まだ信じてもらえていないのは、やっぱり今までの俺のサイテーな俺を見てきたからだろう…
信じてもらえないと、俺は…いつまでも前に進めないのに、なかなかが解決しない問題が一つある。
疑っている様子が伝わってくるが、彼女を巻き込みたくないし、俺の軽薄な行動が蒔いた種だ。
俺だけで解決してみせる。
もう、これ以上あの女に構ってられないと覚悟を決めた。
その矢先に、菜生のアパートのドアに異変がおきていた。
何かで傷つけたような後は、昨日までなかった。
おい、菜生に何があった?
開かないドアを勢いよく叩いて、必死に菜生の名を呼んだら、中から、青白い顔をして今にも泣きそうになっている菜生が、俺を見て安堵した表情を見せ、急に泣き出すからどうしていいかわからないまま抱きしめてあげるしかできない不甲斐ない自分がいた。
落ち着いてきた菜生の肩を抱き、部屋の中に入ると、机の上には、切り刻んだ写真が山になっていた。
「…今日だけって感じじゃないな。他にもあるのか?」
クローゼットの奥から出してきたくしゃくしゃの束が四つ、震える手でなんとか机の上に放り投げるほど、嫌なものらしい。
開いて見れば、菜生を愚弄する酷い言葉、俺との仲を中傷する言葉に怒りが湧いてくる。
…女の字に心当たりがあった俺は、もっと早く動かなかった事を後悔する。
「クソ…あの女。菜生に手を出しているなんて…悪い…怖い思いさせたよな。もっと早く気がついてやれなくてごめん」
菜生に手を出してくるなんて、ただじゃおかない。
いつも、しつこく何度もつれなく断るのに諦めが悪く、どう扱っていいか手を焼いていた女。
いつから、俺をつけていた?
菜生がいると知っていても、あの態度だったのかと、女の恐ろしさと執着を感じた。
菜生に手を出させない…
すぐに警察に連絡し、巡回を強化してもらうが、1人きりになる時間もあるのに防犯が不十分なこんなところに彼女を置いておけない。
俺は、彼女をマンションに連れ帰る事にした。
怖い思いをした時に開き直ると人間は冷静に考える生き物らしい。