Ignition
「スーツ着てない新井さんなんて初めて見たかも。変な感じですね。あ、でも社員旅行のときも見たか」

 それでも、口を開けば至っていつも通りである意味ほっとする。

「汚いとか、くたびれてるとか言うなよ。寝起きだから勘弁してくれ」
「上がって待っててもいいですか」

「いや、だから人の話を――」

 隣の家の玄関から人が顔を出し、二人に物珍しそうな視線を向けてきた。好奇の目に晒されては堪らないと、新井は仕方なく桐谷を玄関にあげた。

「庭見たときも思ったけど、家の中も結構綺麗にしてるんですね」
 パンプスをきちんと並べ、桐谷は視線をめぐらせている。

「わざわざ住所を調べたのか?」
「もしかして怒ってます? もういいじゃないですか、来ちゃったんだから」

 あまりにも屈託のない笑顔を見せられて、降参だ、というように新井は来客用のスリッパを並べた。
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