Ignition
「……なんか新井さんらしくないです。仕事だったら、『俺が責任取るからやってみろ』って言ってくれるじゃないですか」

「仕事は仕事だろう」
 桐谷にソファを勧めて、新井はケトルに水を溜めた。

戸棚から、以前ハワイで大量に買いつけたコナコーヒーの袋を取り出す。ドリップの準備を手際よく終えたところで、ちょうど湯も沸いた。

「私がここに来た時点ですでに嫌な思いさせてるし、このままおとなしく帰ったって美香ちゃんは今日ずーっと嫌な思いするだけですよ。だったら、もういいじゃないんですか。要は、これが最後じゃなくなれば問題ないでしょ?」

「俺は本気で話をしてるんだ。怒るぞ」
「怒ったら新井さんのスウェット下ろします」

「まったく何言ってんだ、お前はほんとに」

 怒りを一周通り越して呆れ果てながら、入れたばかりのコーヒーを桐谷の前に置いた。新井がすぐ隣に掛けると、桐谷はいつになく真剣な表情を向けてきた。
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