Ignition
「私だって冗談で四時起きなんてしません。美香ちゃんとのこと、どうにかしてあげたいって思ったから来たんです。誕生日は今日だけでも、寮のことはずっとですよ」

「……なにか、考えてきたのか」
 おもむろにコーヒーカップに口をつけ、一呼吸してから桐谷は答えた。

「当たり前です。新井さんは、美香ちゃんのことになると真剣になりすぎるから良くないんです。だから、美香ちゃんも構えちゃうのよ。こういうのは、仕事のときみたいに適当にやる方が上手くいきます、きっと」

「俺は仕事も適当じゃないぞ」
「あ、それは私のことですよ。でも、大丈夫です。私それでもミスしたことないでしょ?」

「なんと言っていいのかわからないが――」

 口から出てくる言葉はいい加減でも、行動を見ればいつだって、彼女は彼女なりに懸命なのだ。それをよく知っているのが自分だと思うだけに、どうしても『ノー』が出てこない。

「お前に任せる。これでいいか?」
 諦め半分にそう答えると、桐谷は「はい」と、満足気に頷いた。
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