Ignition
桐谷はすっとベンチから立ちあがり、美香に目で合図する。それだけで通じ合ってしまうのか、二人はさっさと歩き始めた。新井は紙袋の取っ手をまとめて掴み、渋々女性二人の後を追った。

 連れてこられたのは『Walk on by』という、都会的で洗練されたデザインが売りのスーツ専門店だ。

整然とした陳列の店中に一歩入る。そこに存在していること自体が恥ずかしく感じ、居心地はすこぶる悪い。新井が入り口すぐで立ち止まると、桐谷が強引に腕を引っ張って中に連れ込んだ。

「服って、スーツか?」

「まずはスーツ、です。ここ、わりとリーズナブルな値段でセミオーダースーツが作れるって情報を聞いたので、新井さんもそういうの試してみてもいいんじゃないかと思って。情報元は信頼できますよー、坂巻さんですから」

「ええ、あいつわざわざオーダーで作ってるのか」
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