Ignition
仕上がりを楽しみにしている二人とは反対に、新井は二度とこの場所に来たくないと思うほど、憂鬱な気持ちだった。

 クレジットで決済を済ませて買い物がひと段落したところで、ようやく遅めのランチをとることになった。

「あれ着たら、絶対新井さんかっこいいですよ。いい買い物しましたね」
「いいよ、無理して持ち上げてくれなくて」

「ちゃんとそう思ってますよ。ちなみに私、本気で新井さんに買ってあげようと思ってたんですよ? 予算はいっぱいあったんですから」

「元々桐谷に出させるつもりはない。それにあれを買ったら、お前の月給の半分以上飛ぶだろうが」
 抑えたつもりでも、些か口調が強くなる。

「ちょっと、人の給料暴露するのやめてください」

「お父さん。そんなにいじけなくてもいいじゃない。栞那さんはお父さんのことを考えてああやってちゃんと言ってくれてるんだよ。私だってお父さんが――」

「お前は桐谷教にでも入信したのか。俺は一旦荷物を置いてくる」

 言葉を吐き捨てた後には後悔しかなかったが、いい加減我慢がならなかった。
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