Ignition
「お前途中で降ろそうか。荷物もあるし、電車で帰ると遅くなるだろう」

「大丈夫。だってうちに寄ったら遠回りじゃないですか。美香ちゃん先に寝かせてあげてください。明日は学校でしょ」

 堪えきれなくなったのか今度は大欠伸して、桐谷は新井の肩に寄りかかった。ラストノートの甘い香りに、軽い眩暈を覚える。

「懐かしいな。昔一回だけ新井さんの車に乗せてもらったことあったんですよね」
「そうだっけ」

「えー、覚えてないんですか、ひどい。私のことなんてどうでもいいんですね」
「色んなやつ乗せるからなあ」

「それね、全然フォローになってませんよ」
「眠いなら、椅子を倒した方が楽だと思うぞ」

 持ち上がりかけた下心ごと、桐谷の頭を助手席に押し戻す。窓を開け、もう何本目かすらわからない煙草を取り出した。
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