Ignition
「返金なんてされたらみんながっかりします。だって、頼んでもいないのにお金が集まったのは、新井さんだからなんですよ? それに、みんなわーっと来てどんどん置いていったから、誰がいくら払ったも何もわかんないし。どうしろっていうんですか」

苦情を訴える桐谷の手はいまだに力がこもっている。この様子じゃ桐谷は絶対に折れないだろう。この場は一旦金を預かるしかなさそうだった。

「わかった。じゃあ追々納得のいく使い道を考えよう」

ほっとしたように、桐谷の細い指が離れた。

「しかし俺は、そんなに心配されるほど酷いかな」
「それもあるけど、あれは日頃の恩返しみたいなものです」

新井はつい苦笑した。もう、腹を立てたりはしなかった。

「仕事に関して言えば、助けてもらってばっかりで、むしろ、俺のほうが周りに恩返ししなきゃいけないくらいなんだけどな」

桐谷は「いいえ」と即座に首を横に振った。
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