Ignition
「わかったよ」
新井は素直に頷いた。

車は谷町ジャンクションを越え、都心環状線へと入る。休日の夜にも拘らず、煌々と明るいオフィスビルの谷間を通り過ぎていく。午後九時半、都心の道も大分空いてきた。

「ねえ、このあと少し飲みませんか。新井さんの家に着いたら」
「うちはとっくに通り過ぎたよ。今、桐谷の家の方に向かってる」

「え、そうなの? 新井さんちでいいって言ったじゃないですか。……今日は、もう少し新井さんと話したい気分だったのに」

「もう十分気を遣ってもらったよ。色々ありがとうな、桐谷」
「新井さんってほんと……」

そこまで言って、桐谷は大きく溜め息をついた。

「何だよ」
「少しくらいは勘違いしないと、恋なんて永遠に始まりませんよ」

「タイミングが来て、そういう風に考えられる相手を見つけたときに、今の言葉を思い出すことにするよ」
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