Ignition
「こっちこそありがとうな。今度の金曜は飲み代俺が出すよ」
「じゃあ、すっごく高いお店にします」

「わかった、覚悟しておく」
「家飲みでもいいですよ。今日買った下着つけて遊びに行ってあげますから」

「お前、どうにかして俺を苦しめようとしてるだろう。……さっきはあんな言い方をして悪かった、謝るよ」

「それって、どういう意味ですか」

 桐谷は突然新井の背中に細い腕を回し、身体を預けてきた。

「おい、美香が見てるかもしれない」
「それは新井さんの気持ちとは関係ないじゃない」

 言っていることが正論すぎて、言い返せない。押し付けられてくる柔らかい熱に抗えず、空いた片手で背中に触れる。

思考を溶かす媚薬のような香りと、肋骨から伝わってくる鼓動の速さに、頭の芯が麻痺しそうになる。
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