Ignition
「生意気な口を利くくらいなら、黙ってたほうが良かったですか。それとも、こんな私でも、少しはかわいいって思ってくれますか」

 肩から顔を離し、桐谷は新井を見つめた。みるみる潤んでゆく目に、どうしようもない想いばかりが突き上げる。

「何か言ったらどうなのよ」
「桐谷はかわいいよ。でも、無理だ」

「私が部下だから? それとも美香ちゃんがいるから? じゃあ私が他の誰かと付き合ってもいいってことですね」

「俺にはそれを止める権利がない」

 諦めたように、桐谷は息を吐き出す。新井の身体をとん、と突き放して、買い物袋のかたまりを取った。

「新井さん。美香ちゃんに、自分の正直な気持ちを打ち明けてあげてください。『相手に心を開いて欲しかったら、まずは自分から心を開かなきゃだめだ』って。

覚えてないかもしれないけど、これは昔、新井さんが私に教えてくれたことです。きっと、今日なら話してくれると思います」
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