Ignition
「何年付き合ったかな、結婚する前から数えたら、二十二、三年か。別れることを決めたときには、彼女のいない生活がどんなものなのかすら、想像付かなかった。

……ひとり居なくなるだけで、こんなにも家が広く感じるものなのかと思ったし、今までどうやって時間を使っていたのかも解からなくなった。そりゃそうなるよな、人生の半分一緒にいたんだ」

 初めて語られる父の弱音に相槌を打つでもなく、美香はただ俯いた。

「智香子のことを考えたとき、心変わりを責められなかった。心が離れていくのは結局俺に魅力が足りないからで、彼女のせいじゃない。

生涯を共にしようと決めて結婚したのに、ずっと好きでいさせてやれなかったことを申し訳なく思った。美香のことを考えて、無理矢理にでも引き止めるべきだったのかもしれないが、俺にはそれも出来なかった。

俺は、人にはそれぞれの人生があると思っている。智香子の人生は智香子のものだ。それは人から縛り付けられるものであってはいけない。……だから、離婚は俺の責任なんだ。ごめんな、美香」
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