Ignition
「ついでに突っ込んでいいですか、新井さん」
「まだあるのか」

「愛人でも出来ました?」
 桐谷は遠巻きに、スマートフォンのモニターを覗き込んだ。

「馬鹿、俺は独身だ。今娘の服を探してるんだよ、日曜で十五歳になる」

「あー……」
 意味ありげに声を揺らし、桐谷は黙った。

「なんだ」
 新井が問い正したところで、ちょうどエレベーターが止まった。

「私はここで。ちなみに折り返しは五件ありますけど、全部急ぎじゃありません。それじゃ新井さん、シャツ買ったら絶対に着替えてから戻ってきてくださいねー」

 新井の手からするりと書類の束を引き抜いて、桐谷は颯爽とオフィスに戻っていった。エレベーターには桐谷の纏う華やかな香りが残っている。

「あれでもうちょっと気性が穏やかなら、相手もすぐに見つかるんだろうがなあ」
 新井の口から思わず呟きが漏れた。

 本人に聞かれたら「余計なお世話だ」と怒られそうだが、なんだかんだで歯に衣を着せぬ物言いが桐谷の魅力でもあり、新井自身も気に入っていたりもするのだ。
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