Ignition
「お父さん、五〇二だって」
「……なんだか美香が桐谷に見えてきたよ」

 そうは言いながらも、美香と同じように新井自身も彼女に感化され始めていることは否めない。シートベルトを留め、エンジンをかける。

「できたら、今晩だけでも考える時間が欲しかった」
「お父さんはいつも『何でも早いうちから始めなさい』って言うでしょ?」

 新井は過去の自分の言葉を恨めしく思った。しかし、時間が過ぎるのにただ任せていては、後悔するのも目に見えていた。

「美香、さっき言ってくれたことを、俺はそのまま信じていいのか」

「お父さん。難しく考えなくても、お父さんが栞那さんを少しでも好きで、栞那さんが幸せなら、お父さんもきっと幸せになれるよ。それでいいんじゃない? 私もそれがいちばん嬉しいよ」

 その言葉にじんと胸が熱くなった。

「頑張ってね、お父さん」
 再び滲みそうになる涙を堪え、新井は車を走らせた。
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