Ignition
マグカップをふたつ用意してスティックの口を切り、ポットから湯を淹れる。あっという間に用意して、桐谷は新井の隣に座った。

近すぎる距離に、膝の上で握り締めた手のひらに汗が滲む。部屋の壁をじっと見つめたきり、話を切り出せずにいると、桐谷が顔を覗き込んできた。

「それで、話って?」

 無防備過ぎる胸元が視界にちらついて、新井は思わず顔を背けた。
「その前に……申し訳ないんだが、何かもう一枚着てくれないか。目のやり場に困る」

「え? ああ、すみません」
 桐谷は自分の胸元を見下ろして意味を察し、クローゼットからロングカーディガンを取って、さっと上から羽織った。

「それで?」座りなおしてもう一度繰り返す。
「さっきの返事をしにきた」
「返事って?」今度は少し首を傾げた。

「さっき、他の誰かと付き合ってもいいのかって、訊かれたが……、出来れば誰かとつき合うのはやめて欲しい。勝手なことを言ってるのは分かってるが」
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