Ignition
「嫌か」
 近過ぎる距離に全身が、心臓になってしまったかのようにどくどくと脈打っている。

「もう、本当に最悪。だって、新井さんのそういうところまで好きだって気付いちゃったんだから」
 背中に手を添えて身体を引き寄せようとしたとき、桐谷が首にしがみついてきた。先ほど以上の柔らかさに、思わず唾をのみ下す。

「新井さんの胸、すごくドキドキしてる」
「しないほうがおかしい。寿命が縮みそうだ」

 鼓動が混ざり合っていく。甘い香りの立ち上る身体を抱きしめていると、葛藤も不安も圧倒してしまうほどに桐谷の存在が膨れ上がっていく。桐谷がそのまま体重をかけてきて、新井の身体はソファの上に押し倒された。

 間近には、よく手入れされていそうなきめの細かい肌と、上気した頬。薄く開いた瑞々しい唇。髪に指を通すと、桐谷は触れられている感覚に意識を傾けるかのように瞼を閉じる。
< 74 / 110 >

この作品をシェア

pagetop