Ignition
「力、抜いてください」
「出来るか」
「私のことを少しでも好きだと思ってくれるなら、手の力を抜いて」

「……お前はずるい」
絶望感に打ちのめされて手を離したとたん、圧痛が終息し、心許ない開放感がやってきた。

目的を達した桐谷は喜ぶでも、その先を期待するでもなく「はあ」と大きく息を吐き出して、ぐったりと肩を落とした。

「爪が二枚も割れちゃった」

新井は力なく垂れた手をそっと取った。綺麗に整えていたであろう、人差し指の爪には血が滲み始めている。桐谷が勝手に始めたこととはいえ、可哀想に思えてくる。

「大丈夫か」
「うん。……新井さんはこんなときでも、ちゃんと優しいんですね」

「もうあんなことするな」
「でもほら、一番恥ずかしい部分を見られちゃえば、あとはもう何も恥ずかしくないでしょ?」

 冗談でもからかうでもなく、大真面目にこういうことを言うやつだからタチが悪い。
< 79 / 110 >

この作品をシェア

pagetop