Ignition

 煙草を一本吸って、火照りを冷ます。新井が運転席に乗り込むと、後部座席で横になっていた美香がぱっと身体を起こした。

「ごめん、遅くなった」
「ねえお父さん、上手く伝えられた?」

 寝起きとは思えないほど声がはっきりしている。ずっと心配しながら待っていてくれたようだ。

「ああ」

 照れ隠しに咳払いをしてみるものの、真顔を作るのは難しい。にやにやと勝手につり上がる口角を、どうにかして誤魔化そうと険しい表情を作ってはみるものの、それも上手くはいかない。娘の前だというのに新井は照れ笑いするしかなかった。

「これ以上何も聞くなよ」
 釘を刺すと、美香はぷっとふき出した。

「良かったね、お父さん」
 言いながら助手席に移動し、美香はシートベルトを留める。締まりのない顔のまま、新井は車のエンジンをかけた。

「俺が桐谷と付き合うなら、遠くの高校に行く理由もなくなるんじゃないのか?」
 思いつくままに口にする。
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