Ignition
「俺はな、これから少しダイエットをしようと思う」
「急にどうしたんですか」

「最近腹がまずい。食事だけで腹の浮き輪が外れるかはわからんが、俺もまだ若いやつらには負けていられないな、と……笑うな、坂巻」

「すみません」
 俯いたまま口元を押さえて堪えているが、目が笑っている。

「お前もあと二十年すればどうせ同じ悩みで苦しむんだからな。俺だって今じゃ昔は痩せてたんだ。お前ほどじゃないにせよ」

「桐谷さんですか」

 坂巻の口から突然沸いて出た言葉を深読みしすぎて、新井の思考が飛んだ。そこに生じた妙な間に坂巻まで黙り込んだ。

「……なんだよ」
 何を言われたわけでもないのに顔が熱くなるから始末が悪い。

「いえ、なにも」
 坂巻はそれを見なかったことにしようとしてくれているのか、ふっと目をそらしてスプーンを持った。
< 91 / 110 >

この作品をシェア

pagetop