【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「少し、疲れてまして。申し訳ありません」
「そう言えば、順内閣大学士が貴方がお休みにならないと、ぼやいていたわね。きちんと、休まないとダメでしょう」
産みの親ではないが、今は母である人の気遣う言葉に、黎祥は苦笑した。
「色々と、やることがございますので」
嘘は言っていない。
けれど、眠れないのも本当だった。
翠蓮を失ってから、どうも、眠りが浅いのだ。
元々、眠りは浅い方だから、最近は眠れなくて困っている。
「やることがあるのは、存じています。けれど、貴方は周囲に頼らなさすぎる。貴方が先々帝を恨んでいるのは仕方ないでしょうが、ここは先々帝の真似をしては?」
「父上の……?」
柳皇太后は……周囲はよく勘違いしているが、別に黎祥は父を恨んでいる訳では無い。
ただ……父のせいで、母が死んだと思っていた幼い頃は……恨みを、父に向けていたが。
黎祥の父は、民に慕われるようなそんな良い君主であった。
ただ、女の選びが悪かったというか……こだわりが無かったというか。
一番初めに宛てがわれた女は、異民族・湖烏(コウ)族の娘。
容姿はこの国にはないもので、とても珍しかった。
勿論、異民族は後宮に入っても、後宮に住む他の妃からは遠縁になるのが常である。
そのため、気の弱い異民族の女はやっていけないのだが、父に宛てがわれた、”湖烏姫(コウキ)"と呼ばれるようになる女は自分に自信のある女だったらしく。
先々帝の前にも、堂々と出ていったそうだ。
その時は、後宮が荒れて大変だったらしい。
自分の容姿に大きな自信を持っていた湖烏姫だった為、
『へー、綺麗だね。で、君は何が出来るの?』
という、先々帝の一言は、相当大きな衝撃だったことだろう。
暫くは、寝込んでいたという話だ。
父が皇太子の時代から、彼の隣に立ち続けてきた目の前の柳皇太后がそれらの証人である。