【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「棟志輝(トウ シキ)が、苦労して書いたものです。ですから、どうか―……」
その懇願の声に、反抗できなかったのだ。
最近の黒宵国は荒れているが、これでも歴史の長い国。
歴史書はとても分厚く、歴史書の中でも評価の高い『宵始伝』は、何と全五百八十二巻に及ぶ。
数だけで気が遠くなりそうな話だが、棟一族といえば、その生涯で、可能な限りの歴史書を書く一族だと聞く。
後宮にも、棟家の女人はいるが……この国の歴史について詳しくて、たまに、話を聞かせてもらったこともある。
内容は面白そうだったが、分からないのは、どうしてそれを伯怜さんが翠蓮に願うのか、ということである。
時代が移り変わっていく中で、棟家は冷武帝の御代も、その子、また、その子と続く限り、『宵始伝』を書き続けるのだろう。
この国が終わらない限り、その歴史書も終わらない。
棟家の初代は、棟志輝。
かつてのこの国の初代である女王、淑彩苑(サイエン)に仕えていた男だと言われている。
「―分かりました。読んでみます。けど、今は忙しいので……時間はかかると思いますが」
そんな翠蓮の言葉に、優しい笑顔を向けてきた伯怜さん。
その優しい笑顔が、やっぱり、どこか泣きそうに見えて。