【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『―彩蝶(サイチョウ)!』
その中でも、彼は前線に立っていた。
十歳に見たぬ年から、彼は武に長けていたからだ。
『フフッ、おかえり。黎祥』
『起き上がってていいのか?―ああ、横になるのなら、手伝う』
幼い頃から、色んな目にあっていた。
だからか、彼はとてもしっかり者だった。
『…………お前は本当に、祥星に似ておる』
そして、そんな彼を見て、彩蝶様はそういうのが口癖だった。
その言葉に、いつも、黎祥様は何も返さなかった。
返せるはずもなかったのだ。
だって、彩蝶様と黎祥様を追い込んだのは、黎祥様の実の父親なのだから。
きっと、彩蝶様は分かってた。
いつの日か、黎祥様が皇宮へ帰ってくることは。
だから、
『皇宮にはきちんと、心強い味方を残してきた。嵐雪、何があっても、あの子の味方でいてあげてくれな。よろしく頼む』
何かある度に、彼女は嵐雪に言ったのだ。
勇ましく、強く、憧れだった女性。
『あの子はな、自由が好きなんだ。本当なら、いつだって……王の子だという身分を捨てて、息苦しい環境から駆け出し、自由に生きていきたかったはずだ』
黎祥様を一番に理解し、愛していた彼の母親。
『嵐雪、知っているか。私には、弟がいたらしい』
『……』
『あ、異母兄弟のことではなく。同母弟だ』
『彩蝶様の、子、だと……?』
『ああ。だが、その子は今はいない。その子のことを、彩蝶は教えてくれない。その子がいたのなら、私は―……』
その時、彼が何を続けようとしたかなんてわからない。
分からないけど、今の彼が、本気で翠蓮殿を欲していることはわかるから。