【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……そのことに関して、柳皇太后様はなにか行動を起こされたのですか?」
「え?」
「黎祥様と彩蝶様が愛されることについて―……」
嵐雪の質問に、彩姫様は目を丸くして。
「もしかして……先々帝がずっと、黎祥だけを可愛がり、黎祥だけと遊んでいたと思ってる?」
「そうではないのですか?」
彩蝶様の住まう宮に、先々帝が通いつめていた話は有名である。
格別に、宮に通われる彩蝶様を羨んで起こされた、事だと思ったのだが。
「違うわ」
「では……」
「お父様はね、彩蝶様を格別に愛しておられたけど……知っているとおり、彩蝶様はそれに甘えられる方では無かった。自らにできる方法で、後宮の人々との交流を計っていたわ」
「……」
「そこに、遊ぶことが好きなお父様が入っていっただけ。彩蝶様はきちんと、どの妃にも招待状を出していたのよ?私は知ってる。お母様は読まずにそれを破り捨てて、先帝と繋がり、処刑されたけど」
「つまり、それを受け取り、訪れていた妃はいた、と?」
「ええ。私もたまに、お母様の目を盗んで遊びに行ったわ。お父様も彩蝶様も嫌な顔一つせず、受け入れてくれた。お父様に至っては、こっそり、お母様に気づかれないように私の部屋に入って、お母様が現れた時、何事も無かったかのように私と遊んでいたふりをしてくれたわ。勿論、その日、彩蝶様の宮に通われたことは聞き及んでいて、嫌味を遠回しに言うお母様の相手を、お父様は何気ない顔で交わし、いつも……お母様の鬱憤晒しから、私を守ってくれた」
彩姫様の母君は、刀貴人だ。
家の身分的にも、後宮内の地位も特に高くはなく、二人産んだ子供はどちらも姫君で……それでも、先々帝はその二人の姫君を大切になされていた。
だから、夢を見たのか。
行き過ぎた欲望は、身を滅ぼすのに。