【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……」
―…………死?
記憶の彼方でちらついたそれを受け止めて、混乱する。
でも、それ以前に。
「人は脆い。死んだら、すべて終わりじゃ!頼むから……儂らに身を犠牲にするなと説くならば、そなたも大事にしておくりゃれ……そなたが"また”いなくなれば、今度こそ―……」
「分かった。分かったから、飛燕。大丈夫だから」
自然と、宥める言葉がでる。
風が吹く。
妙に強い、風が吹く。
「……不味いな」
飛龍は小さく呟くと、
「飛燕、帰るよ」
翠蓮に縋り付く、飛燕に触れる。
「嫌じゃ!儂は、翠蓮と―……」
「その力で、翠蓮を傷つけるつもりか!」
飛龍の怒鳴り声に、飛燕は怯む。
苦渋の表情を浮かべて、翠蓮の衣から手を離す。
「飛龍、私なら―……」
「ダメです」
「え?」
「貴女は偽装とはいえど、妃になる身でしょう。どうか、御身は大切になさいませ。そして―……紫艶、お前、身は慎めよ。"次”は、許さないからな」
いつもチャラチャラしていて、飛燕達に『変態』と呼ばれている飛龍が初めて、『怒った』。
「いつでも、私たちの名前を呼んでくださいね」
紫艶さん達を睨みつけた飛龍は、力の抜けた顔をした飛燕と
「またね、翠蓮」
はにかむ飛雪を連れて、また、霧のように消える。
「………………私だって、後悔してるさ」
そして、三人が姿を消した場所を眺めていた紫艶さんは、ポツリと独りごちて。
「私のせいで、一人にした」
泣きだしそうな横顔は、美しく。
「……すまぬ。流星、私休む」
流星さんにそう一言告げると、姿を消した。