【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―

伝説




―暁和殿。


「今日は―……」


「李修儀で」


既に、恒例とかした会話。


最後まで聞くことなく、見ることなく、黎祥がそう言うと、宦官が困った顔をして。


「―陛下、暫く、李修儀様は左手中指に金の指輪でございます」


「……ならば、誰も要らぬ。下がれ」


嵐雪の一言で、黎祥は宦官を追っ払った。


「陛下」


「……なんだ」


「翠蓮様は……いえ、何でもありません」


言葉を濁して、すぐに仕事をはじめる嵐雪。


言いたいことがあるのなら、言えばいいのに。


(金の指輪、か……)


金の指輪や銀の指輪、彤史の有無に関しても、後宮では厳しく、法が決まっている。


例えば、左手の薬指に銀の指輪を嵌めていると、いつでも夜伽ができるという、合図のように。


左手の中指に金の指輪は、月の障りの為、夜伽を避けなければならないという合図だ。


近頃、毎晩、李修儀―翠蓮を寵愛しているので、翠蓮の右手からは銀の指輪が消えることは無かった。


右手に銀の指輪を付けていることで、表される合図は『昨夜、寵愛を受けました』だ。


翠蓮が後宮にやってきて、妃としての寵愛するようになってから―……ずっと黎祥は卑怯にも、彼女が一生、後宮から出られなくなる理由ができればいいと願っている。


でも、今回もダメだった。


彼女の右手に、懐妊の証である翡翠の指輪がつくことは無かったのだ。


代わりに、左手に金の指輪がついた。


それは、黎祥の望んでいることではない。


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