【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……見過ごしたことを、悔いておいでですか?」
「……」
「例え、その手を染めたのが自分でなくても、貴女は自分を責められる。それが、どうして罪になりましょう」
灯蘭は膝の上で、拳を握りしめた。
信頼してた人だった。
姉みたいに、慕っていた人だった。
翠蓮だって、信頼していたはずだ。
だからこそ、翠蓮に話したくなくて、その意思を尊重してくれていた祐鳳だったけど、寸前になって、祐鳳を裏切った。
どうしても、見てられなかったんだと思う。
未だ、父を慕う翠蓮を見て、
そして、この一連のことを解決しようと奔走する彼女を見て、
耐えられなかった。
耐えられなかったのだ。
「…………翠蓮は、大丈夫ですよ」
何も言えず、涙を零す灯蘭を見て、祐鳳は微笑んだ。
「あの子には、陛下がおります。愛する人が、愛してくれる人が一人でもいるのなら……人間、立って、歩いていけます」
(黎祥兄様が……翠蓮を、救う?)
本当に、そういう未来は来るだろうか。
翠蓮はまた、灯蘭に笑いかけてくれるだろうか。
酷い形で、彼女を裏切ってしまった自分に。