【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「それでも、一緒にいるうちに……あの人は不器用なだけなのだと気づくことが出来ました」
黎祥を好きだと自覚した瞬間のこと、
あの人のそばにいたいと願った夜のこと、
あの人が、翠蓮にくれた言葉の数々。
全ては大切な宝物で、話し終えて、嵐雪さんを見ると、
「それは、貴女にとって辛い恋でしたか……?」
と、尋ねられた。
翠蓮は、静かに首を横に振って。
その動作を蘭太医が、嵐雪さんが、順徳太妃が、飛燕と飛雪が、ずっと見ていた。
「いいえ…………いいえ」
二回、強く繰り返した。
あの恋は、決して後悔するものではなかったから。
それは、自信を持って言える。
あの人を愛して、不幸だと思ったことは無いの。
「とても、幸せで……泣きたくなるくらいに、ううん、泣いてしまうほどに、幸せな日々でした」
黎祥の指先は、いつも冷たかった。
翠蓮にはもう出来ないけれど、あの指先を温めてくれる人が現れるといい。
黎祥を幸せにしてくれる人が、いつか―……死人に似た、ひんやりとした、触れられる度に怖かった指先を包み込んで、笑ってくれる人がいるといい。
考えれば、考える程に、降り積もるのは愛しさばかりで。
彼がどこにも行かないよう、何度も自分を刻みつけるように、その手を抱きしめたあの時を、あの幸せな時間ですら、放棄する道を選んだ。
それなのに、こんなにも寂しくて、悲しくて、あの人に抱きしめて欲しくて。