あの時からずっと、君は俺の好きな人。
怒った表情を、ふざけるように過剰な演技で作る水野くん。

私が彼に何も言わずに1人でこんなことをしていることに不満はあるようだが、「まあ、仕方ないよね」という彼の優しさが見え隠れする。

その押し付けがましくない優しさが本当に嬉しくて。涙が出そうになってしまったが、瞳に力を入れて、ギリギリのところで私は堪える。


「ーー怖くなっちゃったの? 新幹線」


水野くんは私の横で腰を下ろし、視線の高さを私に合わせてから、宥めるように私に尋ねた。私は無言でコクリと頷く。

あの白く丸みを帯びた無機質な塊が異常なまでに怖い。テレビや遠目で新幹線を見ていた分には、全く思わなかったけれど。

乗車前のアナウンスを聞き、速度を緩めてホームに入ってくる新幹線を間近で見てしまった瞬間ーー。

あの日、急にぐらりと揺れた瞬間の恐怖が復活した。

私からパパとママを、あの時のすべてを奪った新幹線を、直視することが出来なくなった。

ーーだけど。


「でも……行きたい」
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