眩しい世界の中で
『キーンコーンカーンコーン』
「あーすんごいぼーっとしてた。今何時だ〜?」
海桜は屋上にいた。
『ガチャ』
突然ドアを開ける音がした。
海桜が後ろを振り向くとキラキラと輝く金色の髪の毛、長いまつ毛、切れ長な2重の目、少し茶色が混じった瞳、筋の通った高い鼻、少し口角が上がった口。世界中のモデルを集めてその中にその男がいても輝きを放つ様な容姿。まさに光り輝く太陽のような綺麗な男が立っていた。その後には、アイドル風に例えると可愛い、ヤンチャ、弟系担当の可愛い男の子と落ち着いた雰囲気をかもし出す、お兄さん系担当の男。そのまた後ろには1番前の男と対になる黒髪、深い漆黒の瞳、透き通った肌。1番前の男が朝を照らす太陽ならば、この男は暗い夜を照らす月に例えられる。

「あ、太陽君、巧君、雅人君、春斗君だっけ?どうしたの?こんな所で?」
海桜は笑顔で聞いた。太陽達は、驚いた顔を見せた。
「え、なんで海桜ちゃんがここにいるの?ここ立ち入り禁止だよ?書いてあったでしょ?」
太陽は海桜が座っている目の前にしゃがみながらいった。
「うん!書いてあった!てか、今何時〜?」
「え、もうお昼だよ?」
「まぢで??そんなにたった?」
「そう言えば海桜ちゃん1時限目から姿消してたね〜。ずっとここにいたの?」
「そう!」
「まぢでー?転校初日でしょ?大丈夫なの?」
4人の中で1番しっかり者の雅人が心配そうに言う。
「あのね〜チミ達?我々人間には授業よりも大切なものが沢山あるのですよ〜。お分かり?」
海桜は冗談まぢりに笑って言った。
「だよね、だよねー!同感!」
「同感するな!でも、流石に転校初日からこんなにサボってやばいでしょ?」
「平気、平気!もー昼か〜。らら達の所に行こ〜っと」

海桜は立ち上がったが、立ちくらみがし、倒れそうになった。その瞬間決して低いとは言わない海桜の身長よりも遥かに高い太陽が海桜を包み込んだ。細くてがっしりとした長い腕が海桜の華奢な体を優しく力強く支えた。
「大丈夫?」
「あ〜大丈夫!ごめんごめん!」
海桜の長いふわふわな髪の毛が太陽の腕をくすぐる。ぱっちりと丸み帯びた大きな目、長くカールしたまつ毛、黒く澄んだ大きい瞳、細高い鼻、柔らかそうな血色の良い潤った唇、透き通った白い肌。人形のような麗しい顔立ち。ほんの数秒海桜と太陽は見つめ合った。太陽は澄んだその瞳に吸い込まれそうになった。
「海桜ちゃん大丈夫?」
雅人が太陽の横でまた心配そうに言った。海桜と太陽は離れた。
「あ〜大丈夫大丈夫!私よくこけるのよね〜!じゃ〜またねー!」
海桜は笑いながら答え、屋上を出た。

「ん?太陽どうしたの?」
巧と雅人が固まった太陽の顔をのぞき込む。太陽はゆでダコのように赤く頬を染めていた。
「え、太陽?」
「おい、おい、なしだかんな?冗談やめろ。」
2人はなにかの冗談だろうと言わんばかりに困惑しながら言った。
「は?何が??」
太陽は我にかえり慌てて返す。
「・・・。お前このゲームの意味分かってんの?」
春斗が太陽を責めるようにいう。
「わかってっしそんな事!」
それに対し太陽は強い口調で言った。



「ありえない。ありえね〜!確かに藤井海桜は可愛い。でもそれだけで・・・。いや、可愛い子なんていくらでも見てきた。ないないない。」
太陽は自分に言い聞かせるよう心の中で何度も唱えた。太陽は初めての感覚に困惑していた。今まで様々な女を相手にしてきた。それでも今まで誰1人として太陽の心を乱す女はいなかった。



「そろそろ雨も降って来たし帰るか!」
学校の帰り、海桜達が遊び終えると外は雨が降っていた。
「うん!」
「うちらも帰っか!」
「だ〜ね!」
「海桜ここから帰れる?てか家どこ?」
「平気!帰れる!ここら辺は分かるから!じゃまた明日ね!」
海桜達は挨拶を返しながらわかれた。



海桜は正直この辺は分からない。ただただ、分からない道を闇雲に歩いた。やがて、森林に似た手入れされた公園にでた。そこの公園の中心には池が広がっていた。海桜は傘を閉じ、池の傍に座った。瞼を閉じ、耳を澄ませる。雨が池を叩く、リズミカルにちゃぽんちゃぽんと音を奏でる。水滴が葉っぱを滑る音。誰もいない。雑音もない。気持ちいい。海桜だけがいる空間、世界。落ち着く世界。



「な、久しぶりにあそこ行かね?」
太陽は何かを閃いたかのように言う。
「いいねぇー!」
「雨なのに?」
太陽達4人は遊んだ帰りにこの後のことを話し合っていた。
「良いじゃんか!なんかわかんね〜けど、急にあそこに行きたくなった!なんか良いことが起きる予感がする。」
「何?メルヘン?」
巧はニヤニヤしながら太陽にいった。
「んなわけねーだろ。気分だよ、気分!」
「へ〜、まぁ〜帰っても暇だからいいけど。」
雅人はカバンに乗った雫を払いながらいった。


俺らが昔から溜まり場にしている場所がある。俺と春斗が幼稚園の頃から遊んでいた場所。中学に入って巧と雅人を連れて来ると2人もその場所をすぐに気に入り、俺ら4人の溜まり場になった。あそこは朝や昼間はよく人がいるけど、夜になると嘘のように人がいなくなる。俺らだけの物、俺らだけの世界になる。何故か無性に行きたくなった。子供の頃宝探しをしていた時のような感覚に襲われた。




その日、その場所で俺は綺麗な宝物を見つけた。宝物を見つけ、俺は後悔をした。その綺麗で儚い宝物は一生俺の手には入らないと分かったから・・・




太陽達は森林に似た手入れされた公園に着いた。慣れた様に中心にある池へ向かう。すると池の近くに誰かが座っている。長くカールがかかった濡れた髪の毛、水滴が乗っている長いまつ毛、水滴が楽しむ様に彼女の頬を伝う。瞼を閉じ、口角を上げ、何かを楽しんでいる姿。月光に照らされ、淡く黄く光っているような錯覚に襲われる。とても絵になるその美しいさまは、見ている者を惹き寄せる。



「海桜ちゃん・・・?」
太陽の声に海桜が少し驚いたように太陽達を見る。
「あれ?太陽君達!またまた会ったね!凄い偶然!」
海桜は微笑みながら言った。
「まぢで偶然!」
「やばいね!運命かもね」
「かもかも!」
巧と雅人の言葉に乗っかる海桜。
「なんで傘差してないの?」
「ん?気分?」
怪訝そうな顔で言った春斗の問に笑いながら応えた。
「気分って!てか風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫大丈夫!私体強いから!」
雅人の心配を振り払うかのように海桜はガッツポーズをして笑って答えた。
太陽は何も言わず、傘を差し伸べた。海桜は少し戸惑いながら
「ごめん、傘ならあるんだ!」
「なんだよ!差せよ!」
太陽は眉を八の字にさせ指摘した。
「あはははは!ごめんごめん!じゃ私はもうそろそろ帰るね!じゃ、またね!」
「待って、送るよ!」
太陽は急な別れに慌てて言った。
「大丈夫大丈夫」
「でも!」
太陽は海桜の細い腕を掴んだ。海桜は振り向いた。海桜は話す時いつも笑顔。その変わらない笑顔のまま、
「大丈夫だから」
と言い、太陽の腕を解いた。だが、太陽にとってその笑顔は、いつもの笑顔とは違う感じがした。少しだけ海桜の澄んだ瞳が、濁った様に見えた。太陽はそのままなにも言えず立ち尽くすだけになってしまった。


「どうしたんだろう、太陽の奴。」
「さぁ?」
巧と雅人は太陽と海桜のやり取りのあとぼーっと立っている太陽をみて顔を合わせた。
「太陽?大丈夫?」
「太陽〜?」
「ん?あ、まぁあれだ。俺らもかえるか!」
太陽は巧と雅人の呼びかけに我にかえり慌てて帰り支度をした。
「え、もう〜?来たばかりじゃん!」
「ん〜そうだね!帰るか!」



『ガチャ』
「ただいま〜。って誰もいないか。」
太陽は玄関に入り靴を脱ごうどした。目に入ったのは父親の靴だ。
「ん?父さん帰ってんの?」
太陽は廊下を進んだ。廊下の突き当たりのリビングから父親の声が聞こえる。
『ガチャ』
「ただいま。おかえりなさい。」
「あ〜。」
太陽の挨拶に短く返事をする40代前半くらいに見える男が立っていた。男は落ち着いた雰囲気をかもし出し整った顔立ちで太陽に微笑みかけている。しかし、どこか疲れている様にも見える。
その男はどうやら電話をしていたみたいだ。太陽がリビングに入ると同時に電話が終わったようだ。
「珍しいね、親父が帰ってきてるなんて。」
「まぁな。仕事が落ち着いたから少し我が家に戻ろうと思って来たが、またよびだしを食らった。すぐに出るよ。」
父親が携帯をチラチラと振り、少し困った様な表情で笑った。
「忙しいね。まぁ、頑張って俺のお小遣い稼いでよ。」
「あ〜。じゃ行ってくる。」
父親は太陽の言葉に微笑みながら答え、リビングを出た。


父親と母親は仕事が忙しく中々家には戻って来ない。俺がまだ小さくて1人で家に置けない位の頃は、よく父親と母親は喧嘩をしていた。その度に俺は近くの春斗の家に潜り込んでいた。だけど、俺が手を焼かなくなった頃から父親と母親は喧嘩をしなくなった。元々仲がいい夫婦。お互い仕事を大切にしているから、お互いに理解しているから、関係を築くことが出来ているのだと思う。それに、お互いに本当に愛し合っていることが分かる。月にいや、年に何回かだけど、お互いに都合のいい日を作り、2人でデートをしている。父親と母親の事は尊敬している。照れくさくてそんな事は言えないし、態度にも出さないけど。



床も壁も天井も白い、消毒の匂い。清潔感のある大きい建物(桜井病院)の病室にいた。
「なーんでまた、君はそういうことばかりするのかな〜?」
呼び出しをくらい慌てて来た太陽の父親はニコニコと笑顔を見せてるが確かに顔色が悪い女の子の前に仁王立ちになり説教をした。
「ごめんごめんって〜!先生!」
それでも女の子は笑いながら謝る。
「ごめんじゃないだろ!君は体を冷やしたらだめなんだぞ!」
「あ〜はいはい。ねー先生。今日ここに泊めて〜。帰るのだるいから。」
太陽父の説教に悪びれることもなく話を誤魔化す。
「当たり前だ!君は!まだ帰せません!明日も学校には行かない方がいい!」
「やった〜!サボれる〜!」
女の子は両手を天にあげガッツポーズ。
「ったく〜。ほら睡眠薬を投与するよ。君はもう寝なさい。」
「はーい。ね〜なんか、先生ってさぁ太陽に似てる。あ〜太陽ってお天道様の方じゃないよ…。」
女の子は点滴に睡眠薬を投与され眠りにつく。
「・・・。まさか?」
太陽父は、急いで女の子のカルテを見た。藤井海桜は1年前から担当している患者だ。
「〇〇高校・・・。太陽と同じ高校じゃないか・・・。」


藤井海桜は、重い病気を患っている。生活にも制限が多々ある。激しい運動や体を冷やしてはいけない。勿論その他にも多々ある。食生活にも制限がある。だか藤井海桜はそれを気にも止めない。元々自分がしたいと思った事は規則があろうがなかろうがしてしまい、何かに束縛されるのが嫌いな子だ。だから今回も体を冷やしてはいけないと知りながらも雨に何時間もうたれ、入院。何故そのような行動をするのか。わざと自分を自分で傷つけているような気もしてくる。学校の中で藤井海桜の病気を知っているのは校長、教頭、保健の先生、体育の先生、担任の先生くらいだ。藤井海桜の味方が身近にもう1人いた方が、藤井海桜にとっても有難い事。
「太陽に話してみるか・・・?いや、少し様子をみるか。」
「そもそも、この子は自分の事を人に話すのを嫌がる。辞めておこう。」



太陽は、お風呂を上がり自分の部屋へ行きベッドにダイブした。
「はぁ〜。わかんね〜。何なんだろう。あいつ。訳分からないことばかりしてるし、なんか綺麗だし、偶然に会う確率高け〜し。なんか、見ちゃうし。困る〜。・・・。いや、でも見ていいだろ!だって俺らは今ゲーム中だよ?てか、俺の本領が発揮出来ない!狂う。なんなんだよ。藤井海桜。てか、さっきの公園出みた表情はなんなんだろう。」
太陽は悶々としながら眠りについた。
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