セカンド・プライオリティ
「ここ、いい?」
忙しないランチタイムを終えて静かになったホールで遅めの昼食をとっていると、そんな声とともにトマトソースの香りが鼻をかすめた。
ほんのりと湯気が立ちのぼる出来立てのまかないを持って立っていたのは、もうすっかりここに馴染んだ麻子ちゃんだ。
怪我をした颯の病室に彼女を呼び出したあの日。どうやら互いに言いたいことを言い合えたらしい彼らは上手くいったようで…そもそも麻子ちゃんに彼氏ができたというのが颯の早とちりだったらしく、あの日から2人は晴れて付き合っている。
そしてだ。そこからの麻子ちゃんの行動力は凄まじいものだった。颯が事故にあったことでうちの店が人手不足なことを知った彼女は、次の日に働いていた派遣の仕事を辞め、その足でうちの店に履歴書を持ってきたのである。
さすがに急なことで俺たちも戸惑ったけれど、契約内容と実際の業務内容に差があった派遣先だったらしく、少し前から派遣会社に相談し、辞める引き継ぎの準備もしていたらしく、スムーズに退職が認められたらしかった。
「それ、なんだ?」
「貴重な休憩時間を使って悩める子羊に愛の手を差し伸べる私へのお礼だって」
目の前の席に座った彼女が、手に持っていたお皿をテーブルの上に置く。
トマトとなす、チーズの一体感が人気のトマトソースパスタ、スパゲッティノルマ。その上に香ばしく焼かれたチキンのローストや、色とりどりの野菜が追加で山盛りにトッピングされている。